~精神医療の現場から~
「うつ病の治療を受けていて寛解される方は3割程度です」(M医師) M医師はしごく真面目に誠実にそう仰いました。 しかし、私は「日本語が通じてないのでは?」と思うほどポカーンとしてしまいました。 ちなみに私がM医師に対して投げかけた質問は、「うつ病は治るんですか?」という質問です。 この質問は病院でうつ病と診断された患者が初期に使う以外、長期にわたる治療の過程で疲れ果てた患者が具体的な回答など得られないことを知りつつ医師に対して問いかける言葉です。 ま、つまり「すげー疲れちゃいました」とほぼ同意語ですね。 この質問に対し、医師は「治る」とも「治らない」とも答えない、これは鉄板。 回答としては「個人差がある」ということになりますが、医師は患者がどのような心情でこういった質問をしたのか、それを察して患者がいたずらに激昂したり、立ち直れないほどのショックを受けないように細心の注意を払いながら、患者がとりあえず落ち着いて「はい」と納得できるようなお話をします。 医師として不誠実な対応と思われる方もいらっしゃると思いますが、実際なんとも言えない以上、できるだけ患者の不安や悲嘆、疲労感を緩和させることに医師が心を砕くのは当たり前なのです。 しかしM医師の回答の意が掴めずしばらく唖然とし、間抜けにも数拍置いてから「え?」と聞き返してしまった私に対して、もう少し丁寧に、一言一句噛み下せるように同じ言葉を発したM医師は、それによって私が激昂に至る可能性を見落としていたようです。 つーか激昂すんなって話ですが、聞きわけのいい部類に入る患者の私だって何年かに1回は疲弊しまくった挙句、泣き喚いてヒステリーを起こしてしまうのです。 ここ数年、治癒に対してまったく望みを失った私はほんとおとなしい患者だったんですけど…。 「患者のうち3割しか…治らないんですか?」 「それじゃ『うつ病は適切な治療をすれば必ず治る』っていうのは嘘じゃないですか!」 「障害年金だってうつ病は治る病気だからって更新制になってるじゃないですか!!」 「なんでうつ病は治るなんて嘘が世間で当たり前のようにまかり通っているんですか!!!」 凄まじいヒートアップに自分でもヤバイと思いつつ、残念ながら自制は利きませんでした。 さすがにM医師は慌ててとにかく落ち着かせようと何度も口を挟みますが、私の怒りに満ちた言葉の弾丸は止まらず、ついに最終兵器的なひと言を。 「脳の機能がおかしいんですよね!?だったら脳外科手術で治せるんじゃないですか!?!?」 「それは無理!脳を手術しても治らない!」 ここでM医師の必死の否定に私は勢いを失い、一気に虚脱状態に。 ようやく診察室の中にM医師の安堵と静けさが訪れました。 外の待合室にどの程度聞こえていたのかわかりませんが、多分「騒いでいる患者がいる」「時間とられると迷惑だなぁ」「M先生も気の毒」と思われる程度には中で激昂している患者がいることは伝わっていたことと思われます。 私はM医師を信頼していますし、昨年暮れあたりから社会生活どころか日常生活までまともに送れないほど症状が悪化したため、それまで割と変化のなかった処方箋の内容も症状に沿う形で変化して行き、しかもそれで症状が回復したりはせず悪化の一途、いっときは他人どころか両親とも会話できないほどひどい状態になったのですが、別に薬を変えられてもM医師に対する不信はありませんでした。 本当にそれでよくなるの?という不安は処方箋が変わるたびにありましたが、こりゃ誰が悪いという問題じゃないし、強いて言えば治らない自分が悪いとしか言えませんし。 M医師も、M医師の前任のI医師に対しても「この医師は信用できない」という不信感や反感を抱いたことは一切ありません。 「信頼できる医師に巡り合えるかどうか」ということがかなり治療の行方を左右する病気ですが、私が今までどの主治医に対しても「信頼できる医師」という判断をしてきた理由は、単に私が専門医に対して従順なタイプの患者だったかもしれない可能性が高く、決してラッキーな巡り合わせだったわけではないのではないかと最近思います。 「どれだけ病院や医師を変えても信頼できる医師なんかいない」という人は、そもそも医師自体を信頼できないタイプの人なんじゃないかと思ったりもして、それじゃあ難儀だなと気の毒な気分になったりもします。 いや、でも異例的に他の医師の診察を受けたこともあるけれど、ちょっとその医師は話を急ぎすぎていて不親切だなと思ったこともあります。 ま、ともかくM医師は信頼に足る医師だと私は思っていて、日々多くの患者と接しているM医師が根拠のないデタラメや、いたずらに患者を興奮させるような発言をするとは到底思えませんが、「寛解という状態まで持って行ける人は3割くらい」という発言は、にわかに信じられませんでした。 それはM医師の独断による信頼性の低い数値ではないか?実際にそうした数字を裏付けるだけのデータがあるのか?などの疑問が頭を駆け巡りましたが、M医師と何年も付き合ってきて、M医師が病気についてそうしたいい加減な発言をするとはとても思えない。 内心「それは本当なのか嘘なのか」という疑念を捨て切れずに、とりあえず落ち着いた状態で慎重に説明を始めるM医師の言葉を虚脱感と疲労感でぐったりしながら聞いてみました。 とりあえずまた次回に続く。 当初予定していた展開からかなり違った形になってきていますが、一応書き切る気です。 日曜の晩以降ひどい気欝からなかなか抜け出せなくて…申し訳ない。
by yuzuruha_neko
| 2009-10-07 20:37
| 今日のニュース・雑考
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